本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)
本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書) [新書]

「読書は速読か遅読か」というのは、昔から議論されていた問いである。それは、単なる方法論の問題ではなく、読書という行為にどのような意義があるかという問いでもある。つまり、情報を獲得するための手段ととるか、教養を身につけ、人格を陶冶する場とするか、という問いである。
もっとも、PCやスマートフォンの普及によって膨大な情報が行き交う現代では、速読の方が有り難がられているような気はする。

この本は、京都大学在学時に発表した中編小説『日蝕』で芥川賞を受賞した作家の平野啓一郎氏による、本(主に小説)の読み方を解説した本である。
いわゆる純文学を手がける作家によるこのようなノウハウ本は珍しく、自分がこの本を手に取ったのも、そこに惹かれたというのもある。
しかし、やはりそれ以上に、副題である「スロー・リーディングの実践」が魅力的だったという点が大きい。
速読術なるものに憧れながらも、熟読することの大切さもやはり否定できない自分なのである。

本書は、3部構成となっている。
すなわち、第1部でスロー・リーディングの必要性が説かれる。
ここでは速読が「明日のための読書」であるのに対して、スロー・リーディングは「五年後、十年後のための読書」であるとされる。
そして第2部では、スロー・リーディングの方法が説かれる。
助詞・助動詞に気をつける、音読しない、傍線を引くなどの細かな方法が書かれているが、それらの前提として、
「作者の意図」は必ずある。
という心構えが大切であると説かれている。
この心構えがあればこそ、文章の一字一句をゆるがせにしないよう気をつけて読むのである。
また、それと背反するようではあるが、同時に「創造的な誤読」を楽しむことも、スロー・リーディングの極意である。

最後の第3部は、実際に様々な小説を取り上げ、スロー・リーディングをどのように実践していくかが説かれており、これが本書の半分を占めている。夏目漱石や森鴎外などの文学作家がほとんどであるため、高校の現代文を思い出す部分ではある。
しかし、正解を導くための解説ではないので、著者の個性的な解釈を楽しむ場所と割り切ればよいと思う。

なお、この新書には、続編である小説の読み方~感想が語れる着眼点~ (PHP新書) [新書]
も刊行されている。(H)